旅の報告(2018年9月)
カナダ・ユーコン川/カナディアンカヌー・ツーリング8日間
2018年の9月初旬に、カナダ・ユーコン川カナディアンカヌー・ツーリングのツアーにご参加いただいたお客さまから、ツアーレポートをいただきました。
旅の報告
早朝の凛とした空気の中、静寂と霧に包まれた川を眺めながら熱いコーヒーを飲む。ユーコン川ツーリングの朝はこれから始まる。
世界中のカヌーイストが憧れる大河・ユーコン。北アメリカ大陸の北西部に位置する川で、カナダのユーコン準州とアメリカのアラスカ州を流れ、ベーリング海に注いでいる。
これまで私はそこを飛び越え、より厳しい自然を求めて北極圏の川ばかりを下っていた。荒涼としたツンドラ地帯のストイックな川旅に魅せられていたのである。
だが、すでに50歳を過ぎて仕事や生活が落ち着いてくると、「優しい自然の中での川旅も楽しんでいいのではないか」とする思いがわいてきた。針葉樹の森の中をゆったりと流れるユーコンをのんびりと下る―これからのカヤック人生を長く豊かにする転機となる川旅になるだろう。
ツーリングの出発点の町・ホワイトホース(カナダ)を訪れたのは9月初旬。気温は日本の初冬並みだ。日本からサラリーマン3人、チームリーダーとしてワイルドナビから1人が参加した。カヤックは日本から持ち込まず現地のガイドショップで借りることにした。
今回の川旅は、ラバージュレイク北端のユーコンの流れ出しからスタートし、リトルサーモンまでの約160キロメートルを4泊5日で漕ぎ下るのだ。ホワイトホースからこの巨大な湖の北端に辿りつくにはカヤックでは2日間かかる。川旅の期間を確保するため、カヤックをはじめテントやシュラフ、食料、食器等の家財道具をモーターボートに積み込み、湖の北端までスキップする。長期休暇を取りにくい日本のビジネスパーソンにはありがたいサービスだ。
旗艦となるカナディアンカヌー1艇、シーカヤック2艇にそれぞれ乗り込む。流速が10 km/h ほどあるこの大河は、懸命に漕がなくても、どんどん進んでいく。青空に浮かぶ雲を眺めながらのツーリングは実に爽快である。
夏の時期は、およそ3千人がユーコンを下るという。テーブルや簡易トイレが整備されたキャンプ地が所々にあり、快適なテント生活が楽しめる。森林限界を超えた荒涼とした北極圏での川旅しか経験のない私には、豪華なリゾート地のようにも感じられるから不思議だ。
1800年代後半、金脈を探し当てて一攫千金を狙う採掘者がユーコン流域に殺到した。この川旅ではゴールドラッシュに沸いた人々の夢の足跡を辿ることができる。
朽ちかけたキャビンが点在し、錆びたフライパンやコンロ等の生活道具が残されていた。2日目に現れる大きな中州には、当時活躍したであろう廃棄された蒸気船が歴史的建造物として展示されている。陸に揚げられた巨大な船は、多くの人でにぎわった往時を偲ばせる。
載能力の高いカナディアンカヌーが船団に加わると、川の食事は各段に豊かになる。肉、野菜、パスタ、米、ビールやウイスキー等々、何でも乗せ放題だ。
普段の生活より運動量が多いせいか、とにかく腹が減る。上陸すると腹が減ってたまらない。そして何を食べて美味い。子どもの食べ物の好き嫌いでお困りのご父兄にはカッヤクでの川下りをお勧めしたい。何でもモリモリ食べるようになるだろう。
夕食時には各人で手分けして薪を集め、火を起こす。たき火を囲みながら語り合う食事は、日常では味わえない至福の時だ。炎を見つめながら、夜が更けるまで会話を楽しんだ。
条件さえ整えば、幻想的な光を放つオーロラを鑑賞することができる。ツーリング期間中に出会った日本人カヤッカーによると昨晩、美しく大きなオーロラが出たらしい。ただ、チーム全員が漕ぎ疲れて、ぐっすりと眠り込んでしまい見ることは叶わなかった。残念だ。
野生動物に出会えるチャンスも少なくない。黒熊、狼、ムース、カリブー、ビーバー、リス、白頭鷲、フクロウ、様々な渡り鳥。鮭やグレイリング、パイク等の魚の数も多く、面白いくらいバンバン釣れる。
一方、豊かな自然に囲まれているだけに注意を払わねばならないことがある。まずは熊に対する備えだ。テント内に食料を絶対に持ち込こんではいけない。歯磨き粉や匂いを発する化粧品、魚を捌いたナイフ、釣竿も厳禁だ。キャンプ時にはテントと食料保管場所とは、50メートル以上の距離を取る。陸上を移動する際は、唐辛子成分が含まれたベアスプレーが必携である。銃がない以上、熊から身を守る武器はこれだけだ。川岸には熊の足跡を見ることができた。ベアーカントリーにいることを改めて認識させられる。
川の水を飲料水にするが、煮沸し冷ました水を飲む。川の水にはビーバーフィーバーと呼ばれる発熱や下痢を伴う病気を発症させるジアディアランブリアという細菌がいて、生水を飲むと痛い目に会う。旅がそこで終わってしまってはかなわない。
5日間の行程で一番長い距離を漕ぐのが、3日目のフータリンカ〜リトルサーモン間のおよそ50 km だ。途中、休憩を挟みながら8時間程かかる。抜けるような青空、大きな白い雲、針葉樹の森、南に向かう渡り鳥の群れを眺めながら、漕ぎ下った。1日間でこんなに漕いだことはこれまでにない。いくら漕いでも予定しているキャンプ地までなかなか辿りつかない。カナダの自然の雄大さを嫌というほど実感させてくれるコースだ。
沈(転覆)するほどの危険な急流や隠れ岩は、今回の行程ではなかった。ただこれも水量次第なので、ルートの確認は怠ってはいけない。向かい風が吹くと少々厄介だが、流速があるため、それほど苦にはならないだろう。
5日目。川旅のゴールであるリトル・サーモンビレッジに到着した。
ここでカヌーショップの大型バンがピックアップしてくれる。これまでの北極圏の川旅では、ツーリングの最後に、重いカヤックと荷物を担いでぬかるんだ湿地を水上飛行機が迎えに来る湖や池まで運ばねばならなかった。最後に力を振り絞ることで達成感を味わえるのだが、体力的には非常に厳しい。こんな楽に川旅を終えるとは少しばかり拍子抜けしたが、これはこれで助かる。「決して体力が落ちたわけではない」と言い聞かせている自分がいるのが面白い。
ユーコンは我々がゴールした後も、国境を越えてアラスカを流れ、ベーリング海まで数千km 流れ続けていく。陸に上がり遥か彼方まで滔々(とうとう)と流れる川を見つめていると、このままどこまでも漕ぎ続けたい衝動に駆られた。
しばらくすると私を呼ぶバンのクラクションが鳴った。後ろ髪をひかれる思いでユーコンを後にした。
ユーコンはやさしい表情で私たちを迎えてくれた。「また来いよ」と呼びかけているように。私の中で何度も訪れたい川のひとつになったのは間違いない。
カヤッカー諸君、ぜひユーコンを旅してみてはどうだろうか。きっと素晴らしい思い出になるはずだ。(了)
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〇 ツアー情報
カナダ
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