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旅の報告26/フィンランド
ジャコビニ流星群とオーロラの共演

2011年10月
ジャコビニ(りゅう座)流星群の13年ぶりの極大を目指してフィンランドへのツアーを実施
流星群とオーロラの共演にも期待しての旅でした

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雨模様の日本を出発してヘルシンキに到着した日は見事な快晴。ただし、長年、天文観測ツアーに同行している身としては嫌な予感のする天候である。旅の最初に天気が良い時はロクなことがない。そんな思いで現地の新聞を開くと巨大な低気圧が接近中。翌日からフィンランドは全域に渡って悪天候に見舞われることになる。

旅の2日目。ヘルシンキの天候は大荒れで、地元の人たちにとっても珍しいような悪天候のようである。それでもジャコビニ流星群のピークは2日後の夜なので、心にもまだ余裕はある。夕方に国内線でラップランドに飛ぶと秋の夕暮れは早く、スーパーで買い物をしてからネリムのホテルに到着すると、もうすでに真っ暗な夜。低気圧はようやく通過したようで雨は小降り。外に出てみるとまだまだ雲は厚いが、驚いたことに雲を通してオーロラの明滅を感じる。雲が緑に踊っていた。

旅も3日目。低気圧の通過後も前線が残ってしまい小雨まじりの朝。新聞の天気予報も、テレビの天気予報も、ネット検索の結果も午後から天気は上り坂とのこと。ホテルのおばさんも片言の英語で励ましてくれる。昼頃に日が当たってきたが、夕方に向かってまた雲が厚くなってしまい、夜になっても雲は一向にネリム上空から去ることはなかった。そして、悔しいことに今夜も雲越しにオーロラの明滅が見えている。雲の上では相当に活発なオーロラが舞っているかと思うと、何ともいえない気分である。すべてのデータが明日の好天を予想しているので、祈りながら消灯。明日に備えることにする

そして4日目。今日の夜がジャコビニ流星群のピーク。そして、ネリム滞在の最後の夜である。朝から外は曇り。気分転換にロシア国境に向かって10 km ほどのランニングに出かける。北極圏の風は気持ちが良い。気温は5度前後だろうか。少し天気が良くなってきたようだが、ホテルに戻って昼食をとると、また雲が厚くなってきた。何度もネットをチェックするが、気象衛星の画像を見てもなぜ晴れないのか不思議だが現実は曇り。衛星画像に写らない雲があるのだろうか?とにかくあと一晩しかないので、昼寝をして夜に備えることにする。

夕方起きると外は小雨だった。なぜ !? 早めの夕食をとってカメラを準備すると、もうやることがなくなった。外はまだ小雨模様。ジャコビニ流星群の予想ピーク時刻を刻々と迫ってくる。こうなったら、せめて明け方までに晴れ間がのぞいて少しの時間だけでもオーロラが見られれば良しとするしかない、と自分に言い聞かせはじめたたその時に外から「晴れ間が出てきたぞ!」の声が聞こえた。時間は夜8時。ちょうどジャコビニのピークが始まる時間だ。

過度な期待は禁物。期待などしていないぞという雰囲気を演出しつつ、できるだけゆっくりと外に出て見ると星が見えてきていた。それでもまだ、過度な期待を持つなと自分に言い聞かせて準備をはじめる。

何しろ昨日まで一度も星が出ていないので、ピント合わせもこれから。雲が晴れるとそこには満月が輝いていた。ピント合わせと露出のテストを繰り返していたその時。

目の前を上から下に星が流れた。

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今まで見たこともないような流れ方だ。優雅に明滅をしながらゆっくりと流れた。一瞬、目を疑ったが、闇の中からも歓声があがった。間違いない。噂の、そして夢に見たジャコビニだ。とうとう見てしまった。そして、シャッターもちょうど開けていたタイミングだったので小躍りしたが、まだピントも露出もあっていなかった。それでも、それまで3日間の暗い気持ちを晴らすには、充分な一太刀の流れであった。

それからは急速に雲は切れ30分もたたずに快晴となって。そして、雲越しでも充分にその姿が想像できた活発なオーロラが活動を開始した。アチコチで歓声があがる。

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すごい動きだ。最初は一般的なカーテン状のオーロラだったが、段々と動きが早くなり場所も神出鬼没。西に出ていると思えば東でも揺れる。その中を数分に一度くらいの頻度だろうか、ジャコビニが流れる。思ったよりも数が少ないのは満月のせいではなく、多分、オーロラが明るすぎるのだろう。

そのオーロラは気がつくと上空からシャワーのように降りそそぎはじめた。

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あわててカメラを上空に回し何カットか撮る。すると、今度はピラーのようなオーロラが出ている。
気がつくと視界のすべてでオーロラが揺れている。

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ジャコビニはピークを過ぎると急に流れなくなると言われているが、30分近く流星を確認できなかったので流星群は終了と考え、主にりゅう座方向に向けていたカメラを移動してオーロラに向かうことにする。

何しろ今日は満月である。日本人は通常、月明かりのない新月でのオーロラ観賞や撮影を好むが、アラスカの知人は「僕はむしろ半月から満月の頃のオーロラが好きだ」と言っていた。それが今日は理解できる。これだけ活発なオーロラは満月の明かりをものともしない。満月が照らし出す様々な景色の上を舞うオーロラは新しい出会いといって良いかと思う。

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旧知のカメラマンが、その昔にしてくれた話を思い出す。「強いオーロラは誰が撮ってもそれなり写るけど、淡いオーロラは難しい。でも、淡いオーロラこそ上手に表現すると味わいのある写真になるんだ」
その言葉を思い出し、無謀にも強いオーロラを忘れて淡い雰囲気のあるオーロラを探す。この夜はそんなことをしたくなるほど、オーロラが舞い続けていた。とにかく休みなしだ。

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しばらく部屋でコーヒーを飲む人まであらわれた。外気温は多分、氷点下5℃くらいだと思う。真冬だったら一晩中、外にいるのは厳しいが、秋のオーロラ撮影はひと言でいえば極楽である。色々な意味で余裕がある。しかし、その割にはアレコレと難しい写真を狙い過ぎたようで写真の出来栄えは、恥ずかしい限り。しかし、それでも満足の一夜であった。

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夜半過ぎ、皆から離れて近くの小さな湖のほとりに一人でむかう。勿論、静かな静かな場所。南に向かって視界が開けている湖なので、オーロラ観賞的には人気がないようだが、この夜のオーロラは活発なため南側でも人知れずオーロラは静かに踊っていた。

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30分ほどだったのか1時間ぐらいいたのか良く覚えていないが、しばらく撮影もせずにオーロラを見ていた。そして何カットか撮影したところで、何となく今日の撮影は終了しようと思った。考えてみれば私はツアー同行の仕事でここにいる訳で、徹夜で明日を迎える訳にはいかない。それでもあまり後ろ髪を引かれる思いはなかった。

何というか奇跡の一夜だったと思う。

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