旅の報告22
小雀さんがアラスカを料理する
キーナイ国立公園・シーカヤッキング8日間
2011年7月。個人的には久しぶりに夏のアラスカにシーカヤックに出かけた。
そのツアー同行レポートです。(ワイルド・ナビゲーション/宮田)
7月中旬は短いアラスカの夏のピークシーズン。アンカレッジの南に位置するキーナイ・フィヨルド国立公園の夏は白夜にならないまでも、まだまだ日は長い。朝は5時になるともう明るく、夜は10時過ぎまで日が暮れないので、どうしても夜更かしをしてしまう。夜を通して真っ暗な夜になることはない。そんなアラスカの夏を過ごして帰国して迎えた最初の夜、真っ暗になる東京の夜に違和感を感じてしまいました。
この旅のこと ●
今回のツアーは、これまでワイルドナビがアラスカで行ってきたカヤックの旅とは趣向を変えて、現地のパドリングガイドさんが我々をエスコートしてくれる。メインガイドはコロラド出身の女性ガイドのアードリー(通称、アーちゃん)。そしてサブガイドはアイオワ出身のガイド見習いのフォレスト(通称、森ちゃん)。この二人が基本的なツアーの組立をしてくれる。
その代わりに、日本からはアウトドア料理人の小雀陣二さんが同行して料理を担当。アラスカの食材でその腕をふるってもらうという趣向。ベアーカントリーのアラスカでは本来、臭いが出る料理をアウトドアで作ることは避けるべきルールだが、小雀さんの料理のために今回はパブリック・キャビンを確保して、存分にアラスカの食材を楽しむスタイルである。
余談だがパブリック・キャビンの人気は高く、今回の旅に備えて予約をしたのは今年のお正月。そんな訳で長い長い準備の末にようやく実現したこの旅の参加者は4名。そして、今回は特に役割もない私ですが、アラスカの夏と小雀さんの料理を味わうべく出かけてきました。
今回、私はツアーの前日にアンカレッジに入り、さらにその前にアラスカ入りしていた小雀さんと合流してアンカレッジで食材の買い出し。サーモンは最高級のキング・サーモンをおごり、最近は値段も高くなり高級食材となったハリバット(おひょう)は現地の知人に分けてもらう。そして、アラスカといえどもアメリカなので、アメリカン・ビーフのステーキ肉も忘れない。野菜は地元の野菜が集まるファーマーズ・マーケットまで出かけて購入。余談ですが、アラスカの夏野菜は日照時間が恐ろしく長い関係で、相当に立派な大きさに育つので食べごたえは充分です。
様々な買い出しを終えて参加者を空港までお出迎え。フェアバンクスから回送してきたワイルド・ナビゲーションのバンに、遊び道具と沢山の食材を積み込んでスワードに移動。ガイドのアーちゃんと森ちゃんとミーティングをして、参加者の足りない装備などをスワードで買い出して1泊。キーナイ・フィヨルドの日帰り観光クルーズに便乗して、小型船にカヤックを積み込み港を出たのは、ツアー2日目の朝でした。
1日目 ●
3泊4日のシーカヤッキング・ツアーのベースとなる宿泊キャビンは、アイアリック・ベイの中にあるホールゲート・アームにある。我々が乗るクルーズ船は日帰りクルーズのお客さんのために、ラッコやパフィン(ツノメドリ)を見つけ、アザラシを探し、無線で他の船と情報を交換しながらシャチの家族を訪ねてくれる。天候は生憎の曇り空で写真映えはしないが、沢山の海獣との遭遇にこの海の豊かさを感じながら、我々も一般の観光客気分でホールゲート・アームに到着した。
上陸はゾディアックで少しづつ荷物を運ぶ。その間、日帰りクルーズのお客さんはランチタイム。曇り空の先にはホールゲート氷河を望み、時折、雷鳴のような音と共に氷河が海に崩れ落ちていく。そんな音を聞きながら森の中にあるキャビンまで荷物を運び、早速、小雀さんの手際よい準備でパスタ・ランチをいただく。
国立公園内で過ごすルールは年々、厳しくなっており、今年からは排泄物も持ち帰りが義務づけられた。そんなトイレの使い方や、ベアーカントリーでの過ごし方などの注意事項を確認して、キャビンの周辺を散策などしていると、あっという間に夕方となる。日本ならば、ここで夕食準備となる訳であるが、夏のアラスカはここから余裕をもってひと遊びができる。雨まじりの天気の中、準備をしてシーカヤックで夕方の6時に氷河を目指して出発した。
正直、この日の写真はwebには出したくない。どこからどう見ても寒そうでつらそうなツアーにしか写らない。確かに寒かったことは否定しない。気温は10℃前後。そして時折の雨。しかしホールゲート・アームの中は風もなく、カヤックを漕ぐにはそれほど悪いコンディションとも言えない。漕ぎ出すとすぐにアザラシが岩の上でこちらを見つめていた。ホールゲート氷河は、アラスカの氷河としては幅はそれほど広くないが、高さがある氷河らしいフォルムをした氷河。近づくにつれて、崩れ落ちる氷河の音は雷鳴から轟音へと変わっていく。
寒さも忘れてそんな光景を見ながら夜の9時頃にキャビンに戻った。雨の中のパドリングの後なのでカッパはかなり濡れているが、キャビンの中にはプロパンガスのストーブがある。そのためテント泊とは違い、着替えをすませて濡れた服をつるしておけば、明日の朝までにはすっかり乾いていることだろう。そして、休むまもなく小雀さんは夕食の準備をしてくれる。雨の日のテント泊ではこうはいかない。初日からキャビン利用の快適さを実感する天気であったといえる。
遅い時間にもかかわらず、小雀さんの手の込んだ夕食をいただき、帰りに拾ってきた氷塊を浮かべたお酒を飲みながら夜中を迎えるが、外は日本でいえば夕暮れ程度の明るさのまま。油断しているといつまでも寝ようとは思わない明るさである。そんな長い長い1日の終わりは、キャビンの中にあるバンクベッド(2段ベッド)で横になる。
2日目 ●
出発前に参加者の皆さんに言うのはためらわれたので黙っていたが、実は今日の天気予報は良くなかった。。ところが2日目の朝、目が覚めると快晴無風。昨日は寒々と見えたホールゲート氷河が朝日に輝いていた。今日はアイアリックベイを奥に向かって漕ぎ進めることになった。太陽の光をキラキラと反射する中、気持ちよく漕いでいるとガイドのアーちゃんがビーチにいる熊を見つけてくれた。ブラックベアである。しばし熊の動きを眺め、あちこちにいる白頭ワシの雄姿にも見飽きた頃、ラグーンと呼ばれる入江に到着。ここでランチ。午後はその奥にあるペデルソン氷河の舌端を目指す。
この入江は基本的には淡水で、干潮時には入れない入江である。満潮に向かって潮が入ってくるとその流れにのって漕がなくても氷河まで行けるとの話だっがが、なぜか我々は結構、漕ぎ上がることに(アーちゃん。話が違うぞ..)。途中、アザラシが顔を出し、そして氷河から流れてくる氷塊の写真を撮りながら漕ぎ上がり、雄大な氷河の舌端近くまで辿りついた。ペデルソン氷河は高さはないが、全体の景色が整っている美しい氷河。広がる青空の元、氷河でのカヤックを存分に楽しみ、後ろ髪をひかれる思いでキャビンへと戻ることにする。帰りは潮にのってやってきたラッコが目についた。体調は1 m 半以上あるとのこと。カヤックから見ると愛らしいというよりも、やや恐怖を感じる大きさである。そんなラッコの大きさを感じるのも、カヤック旅ならではの体感といえる。
長い1日の終わり。最後の岬をかわせばもうすぐキャビンが見えてくる。そう思ってホールゲート・アームに入ると、思いがけずの強い向かい風であった。氷河から吹き下ろす風は、本当に冷たい。完全な向かい風に苦労してようやく上陸した時には、正直、かなり疲れた。自然を侮るなかれ。しかし、キャビンには体を暖めてくれるストーブがあり、小雀さんの美味しい夕食が待っている。何という贅沢。皆、かなり疲れているはずなのに、結局は今日も夜遅くまでお酒を飲みながら話ははずむ。夏のアラスカの1日は長い。
3日目 ●
翌日はまたしても天気予報がはずれて晴れ。しかし、昨日の強い風が残り漕げるコンディションではないので、しばらく様子を見ることにして遅い朝食をとる。するとサブガイドの森ちゃんが「ザトウクジラが来たぞ」と声をかけてくれた。油断のできない海である。1頭だけで湾に入ってきたようで、少し水面を上下した後、潜ってしまった。湾に残る波紋がゆっくりと広がる。クジラが見えなくなっても、皆、しばらくはその波紋を見ながらキャビンのテラスに立ち尽くしていた。
結局、この日は風がやまずに停滞。風が強くて海には出られないが、天気は良いので裏の森を散策したりして過ごす。アラスカならではのフカフカの苔に横になると柔らかい布団に寝ているように気持ちよい。帰りに、ビーチで適当な大きさの氷の塊を拾って夜に備える。勿論、溶かせば飲料水にもなるし、クーラーボックスに入れれば食材の傷みも防ぐことができる。まさに天の恵みである。
停滞の日は、小雀さんが丁寧な料理を作ってくれるので、それはそれで我々は楽しい1日を過ごせる。そして小雀さんは停滞の日も大変である。ベアー・プルーフを工夫しなくて良いキャビン泊なので、食材は豊富。そして臭いが出る料理なども自由に作れるので、テント泊の旅とはまったく違った楽しみ方を味わえる。
4日目 ●
とうとうホールゲートアームでの最終日。皆、朝早く目を覚ます。すると今日も快晴。そして風は止んで、鏡のような海面が戻っていた。晴天に備えて前夜に作っておいたおにぎりを素早く食べて、朝6時前にはカヤックを漕ぎ出し、初日に続いてホールゲート氷河へと向かう。昨日から昨夜にかけては氷河がかなり崩れたようで、沢山の氷塊が浮かぶ湾内を、氷を除けながら氷河へと向かう。森では起き出した鳥の声が賑やかである。パフィンもあちこちでのんびりと海面に浮かんでいた。快晴の中、氷河の前を行ったり来たりして別れを惜しみ、キャビンに戻る。今回のカヤッキングは終了した。
今回はキャビン泊なので片づけも簡単。テントを干す必要もなく持ち物だけをまとめて、キャビンを奇麗に掃除して、あとは迎えのボートを待つだけだ。ところがガイドの無線にピックアップが少し遅れるとの連絡があった。理由は不明であったが、しばしビーチで昼寝をしながら迎えを待つ。帰路、船の上でクルーが釣ったばかりのグレー・コッド(タラ)をアイスボックスから出して見せてくれた。どうやらそういうことらしい。ボート・キャプテンが帰りもシャチの家族を見つけてくれたので、ひとしきり写真などを撮り夕方の6時頃にスワードの港に到着。ホテルまで送ってもらい4日ぶりのシャワー。そして、この日の夜は観光客の多い港側とは反対のスワードのダウンタウンを訪ね、ローカル・アラスカンで賑わうレストランで乾杯。アラスカの地ビールがひときわ美味かった。
カヤックツアーは無事、終了。明日はアンカレッジに戻る日だが、その前に私が密かに楽しみにしているアクティビティーがもうひとつある。明日は晴れるだろうか。是非、そうあって欲しい。ということで、この旅はまだ続くのだが、続きはあらためてレポートさせていただきます。
アラスカの原野でのキャンプとはまた違った意味で、キャビン泊の旅はアラスカを楽しめる。ただし、良いキャビンの数は少ないので、ご利用は計画的に。
来年の問合せ、ご予約はお早めに …。
この後の旅の報告
旅の報告23(Hello 熊さん)→
2011年7月16日発●
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